職員から怒鳴られる、無視される、仕事を外される。就労継続支援A型(障害のある人が雇用契約を結んで働く福祉サービス)でそれが続いているなら、事業所の中で我慢し続ける必要はありません。
法律では、そうした行為の多くは「虐待」にあたることがあります。そのため、事業所の外にある市町村の窓口などに通報や相談ができます。A型で働く人は「労働者」でもあるため、雇い主による虐待を届け出たことを理由に解雇するなどの不利益な扱いは法律で禁じられています。いまの事業所を辞めなくても、受給者証(障害福祉サービスを使うための証明書)はそのままで、別の事業所を見に行けます。
怒鳴られる・無視される・仕事を外される。法律では「虐待」にあたることがあります

働く人が「いじめ」と感じる行為の多くは、法律の上では「障害者虐待」にあてはまり得ます。障害者虐待防止法(障害者の虐待を防ぐための法律)では、虐待を次の5つに分けています。
- 心理的虐待:怒鳴る、意図的に恥をかかせる、無視する、悪口を言うなど
- 身体的虐待:叩く、物を投げる、体を無理に押さえつけるなど
- 経済的虐待:賃金を払わない、最低賃金を下回る、無理に通帳を管理する、了解なく現金を引き出すなど
- 性的虐待:嫌がる性的な行為をする、見せるなど
- 放棄・放置:必要な支援や見守りを怠る、他の人からの嫌がらせを放っておくなど
A型事業所の職員は、法律上の「障害者福祉施設従事者等(施設や事業所で働く職員)」にあたります。さらにA型事業所は、働く人と雇用契約を結ぶため「使用者(雇い主)」でもあります。つまりA型での行為は、福祉の職員による虐待と、雇い主による虐待という2つの枠組みの両方にあてはまり得ます。
職員が「指導や教育のつもりだった」と言っても、虐待にあたるかどうかに職員本人の自覚は関係ありません。たとえ指導という名目であっても、著しい暴言や無視は虐待にあたり得ます。
厚生労働省は令和7年12月、令和6年度(2024年度)の調査結果を公表しました。それによると、福祉施設の職員などによる虐待の相談や通報は5,870件あり、虐待の事実が認められた事例は1,267件でした。福祉の現場でも、虐待と判断される事例は実際に起きています。
お金の虐待も、同じ窓口で言えます
会社や雇い主による虐待では、給料に関わる問題が最も多く起きています。
厚生労働省が公表した令和7年度の調査(令和8年9月11日公表)によると、通報や届出があった事業所は1,663か所でした。同じ年度に対応が終わり、虐待が認められた事業所は421事業所で、被害にあった障害者は610人でした。
通報や届出を受け付けた段階では、怒鳴る・無視するといった心理的虐待も39.3%を占めています(延べ2,210人。1人が複数の種類にまたがって数えられることがあります)。そのうえで、実際に虐待と認められた事例(延べ627人)をみると、経済的虐待(お金の虐待)が521人で、全体の83.1%を占めています。心理的虐待も経済的虐待も、同じ市町村や労働局の窓口に相談・通報できます。
働いた時間ぶんの給料が支払われない、給料が最低賃金を下回る、無理に通帳を管理される、了解を得ずに現金を引き出される。こうした行為は、お金の虐待にあたり得ます。なお、都道府県労働局長の許可を受けて給料を下げる「最低賃金の減額特例」という例外もあります。給料の決まり方や減額特例のルールについては、就労継続支援A型の給料の決まり方(最低賃金と減額特例)で確認できます。
ほかの利用者からの嫌がらせを職員が止めないときも、事業所の責任になります
同じ事業所で働く利用者どうしの悪口や嫌がらせは、それ自体は法律上の虐待(職員や雇い主によるもの)に入らない場合があります。法律ではだれであっても虐待をしてはならないと決まっていますが、外の窓口が直接動くのは、主に職員や雇い主による行為です。
しかし、いじめが起きていると知りながら職員が放っておいた場合は、職員による虐待(放棄・放置)にあてはまることがあります。厚生労働省の手引きでも、他の利用者に暴力を振るう人に対して予防の手立てをとらないことが放置の例として示されています。
事業所には、働く人の安全に配慮する義務があります。また、利用者の苦情を受ける窓口を置くことも事業所の義務です。さらに虐待防止の委員会を定期的に開き、研修を行い、担当者を置くことも義務づけられています(令和4年4月1日から義務化)。「職員に伝えたのに何も対応してくれない」という状態は、事業所が果たすべき義務を果たしていない可能性があります。
事業所の外にある3つの窓口。どこに、何を言うか

| 窓口 | こういうとき | してくれること | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 市町村の障害福祉の窓口(障害者虐待防止センター) | 職員に怒鳴られる・無視される・仕事を外される。ほかの利用者からの嫌がらせを職員が止めない | 虐待の通報・届出を受け、事実を確かめる。使用者による虐待は都道府県を通じて労働局へ報告される | 障害者虐待防止法(第16条・第22条・第32条) |
| 都道府県労働局(総合労働相談コーナー) | 給料の未払い・最低賃金割れ・解雇・パワハラなど、働く条件のこと | 相談、労働局長の助言・指導、あっせん。使用者による虐待は労働基準関係法令で指導 | 個別労働関係紛争解決促進法・障害者虐待防止法 |
| 運営適正化委員会(都道府県社会福祉協議会) | 支援の内容や対応など、福祉サービスとしての扱いへの苦情(給料・解雇は対象外) | 相談・助言・事情調査・あっせん。事業所は協力する義務がある | 社会福祉法(第83条・第85条) |
事業所の中で解決できないときは、外にある3つの窓口に相談できます。
1つ目は、受給者証を出した市区町村(ふつうはお住まいの市区町村)にある障害福祉の窓口(市町村障害者虐待防止センター)です。虐待の通報や届出を受け付ける一次窓口になっています。職員による虐待だけでなく、雇い主による虐待も受け付けています。雇い主による虐待は、事業所のある市区町村や都道府県でも受け付けます。労働局に直接相談しても、同じように調査や指導が行われます。市区町村に届いた雇い主の虐待情報は、都道府県を通じて労働局へ報告されます。
2つ目は、都道府県労働局の総合労働相談コーナーです。全国に378か所あり、無料で利用できます。給料の未払いや一方的な解雇、職場での嫌がらせなど、働く条件全般の相談を受け付けています。労働局長による助言や指導、当事者の間に入って話し合いをまとめる「あっせん」の手続きを利用できます。法律違反が疑われる場合は、労働基準監督署などから事業所への調査や是正指導が行われます。
3つ目は、都道府県の社会福祉協議会(しゃかいふくしきょうぎかい)に置かれている運営適正化委員会(うんえいてきせいかいいんかい)です。福祉サービスの内容や職員の対応についての苦情を受け付けています。給料や解雇といった労働問題は対象外ですが、福祉サービスについての苦情を調査し、双方が同意すれば話し合いを仲介(あっせん)してくれます。事業所には、この調査やあっせんにできる限り協力する義務があります。
なお、殴られたり体を傷つけられたりした場合や、性的な被害を受けた場合は、警察への相談も選択肢に入ります。虐待行為は暴行罪や傷害罪などの犯罪にあたる場合があり、実際に施設職員が逮捕された事例もあります。
外の窓口に相談するときは、状況をメモして持っていくと話がスムーズに進みます。いつ、どこで、だれに、何を言われたか(されたか)、その場にだれがいたかをメモしておきます。紙やスマートフォンに残しておくだけで、窓口で状況を伝えやすくなります。
通報しても、解雇されない。名前も漏れない決まりがあります
通報や相談をしたことで解雇などの不利益を受けないよう、法律には通報者を守る明確な決まりがあります。
A型事業所で働く人は雇用契約を結んでいるため、法律上の「労働者」にあたります。障害者虐待防止法では、雇い主による虐待を通報・届出したことを理由に、解雇などの不利益な扱いをすることを禁じています。職員が虐待を通報した場合も同様に守られます。厚生労働省の手引きやリーフレットでは、こうした不利益な扱いは民事上無効と解されると説明しています。これは、こうした扱いをしても、法律の上では効力がないという意味です。
また、個別労働関係紛争解決促進法でも、労働局に助言・指導やあっせんを求めたことを理由とする不利益な扱いを禁じています。
名前が事業所に漏れることも防がれています。通報や届出を受けた市町村・都道府県・労働局の職員には、だれが通報したかを漏らしてはならない義務があります。法律上の守秘義務があっても、法律にもとづく通報が妨げられることはありません(わざとうそを言った場合や、確かめずに通報した場合などは別です)。小さな事業所で、調べに来たら自分だと分かってしまうと心配なときは、そのことも窓口に伝えてください。
さらに、厚生労働省の手引きや集計資料にも示されているとおり、名前を名乗らない匿名での通報も受け付けられています。通報ですべてがすぐに解決するとは限りません。しかし、公的な窓口を動かし、事業所に調査や指導に入ってもらうきっかけになります。
辞めなくても、別のA型事業所に移れます。受給者証はそのままです

いまの事業所に通いながら、別のA型事業所を探して移ることができます。辞めた時点で、受給者証が自動的に失効することはありません(有効期間内)。
障害福祉サービス受給者証は、特定の事業所宛てに出されているものではありません。「公費」(国や市のお金)で福祉サービスを利用できる権利として発行されています。
そのため、同じA型事業所どうしで移るなら、有効期間内であれば、原則として受給者証はそのまま使え、新しい事業所と契約を結び直す手続きで移ることができます。有効期間は最長3年の範囲で市区町村が決めており、別の市区町村へ引っ越すときは、原則として、あらためて申請が必要です。
事業所を移る前には、市区町村の窓口や相談支援専門員(福祉サービスの計画を立てる専門家)に一言伝えておきます。事前に確認しておくことで、事業所同士の引き継ぎや手続きがスムーズに進みます。
別の事業所の見学には、受給者証は要りません。費用もかかりません。いまの事業所に通いながら、休みの日に別の事業所を見に行くことができます。具体的な移り方の手順は、就労継続支援の辞め方・移り方で確認できます。また、見学先の選び方に迷うときは、最初に見学する順番が参考になります。
どうしても辞めるとき、雇用保険はどうなりますか
いじめや嫌がらせによって事業所を辞めざるを得なくなった場合でも、雇用保険の基本手当(失業手当)を受け取れる道があります。
事業所で嫌がらせを受けて辞めた場合、ハローワークで「特定受給資格者(倒産や解雇、著しい嫌がらせなどで離職した人)」と認められることがあります。認められれば、自己都合退職のときに課される給付制限(手当がすぐにもらえない期間)がかかりません。7日間の待期期間のあと、給付制限なしで支給の対象になります。ただし、基本手当を受け取るには、離職前の1年間に雇用保険に入っていた期間が通算6か月以上あることも必要です。
障害者手帳などがあり「就職困難者(仕事を見つけるのが難しい人)」にあてはまる場合、所定給付日数(失業手当をもらえる日数)は長くなります。雇用保険に入っていた期間ごとの日数は次の表のとおりです。
| 雇用保険に入っていた期間 | 45歳未満 | 45歳以上65歳未満 |
|---|---|---|
| 1年未満 | 150日 | 150日 |
| 1年以上 | 300日 | 360日 |
雇用保険の対象となるのは、原則として週20時間以上の労働契約で働いている人です。週20時間未満の契約で雇用保険に入っていない場合は、失業手当の給付対象にはなりません。なお、2028(令和10)年10月1日からは、この基準が週10時間以上に広がります。
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まとめ
- 怒鳴る、無視する、仕事を外すといった行為は、法律上の「虐待」にあてはまることがあります。
- 怒鳴る・悪口も、お金のことも、同じ窓口で言えます。
- 相談窓口は、虐待の通報なら市町村、働く条件なら労働局、サービスの対応なら運営適正化委員会に分かれています。
- 通報や、助言・指導・あっせんを求めたことを理由とする解雇は法律で禁じられており、名前などの情報も守られます。
- いまの事業所を辞めなくても、受給者証をそのまま使って別のA型事業所へ移ることができます。
相談するか、移るか。両方いっぺんに進めていい
事業所で「伝えても変わらない」状態が続いているなら、外の窓口に相談する準備と、別の事業所の見学を同時に始めて構いません。
どちらか一方を選んでから動く必要はありません。体調を崩してしまう前に、できることから少しずつ進めていくことができます。
いまの事業所を辞めなくても、次のA型事業所を見に行けます

いまの事業所に通いながら、ほかの事業所を見学することはできます。見学に受給者証は要りません。近くの事業所を先に見ておくだけでも、「ここしかない」という気持ちは軽くなります。
参考
- 障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律(平成二十三年法律第七十九号) 虐待の定義(5類型)、通報・届出先、通報者を守る決まりの出典です。
- 障害者福祉施設等における障害者虐待の防止と対応の手引き(令和6年7月・厚生労働省・こども家庭庁・PDF) 心理的虐待・放棄放置の具体例、匿名の通報、刑事罰の出典です。
- 使用者による障害者虐待をなくそう(令和7年12月・厚生労働省・都道府県労働局・PDF) 使用者による虐待の例と、労働局の対応の出典です。
- 「令和7年度使用者による障害者虐待の状況等」の結果を公表します(令和8年9月11日・厚生労働省・PDF) 通報・届出 1,663事業所、認められた 421事業所、経済的虐待 83.1%の出典です。
- 令和6年度「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果報告書(令和7年12月・厚生労働省・PDF) 施設従事者等による虐待 5,870件、判断 1,267件の出典です。
- 総合労働相談コーナーのご案内(厚生労働省) 全国378か所、扱う相談の範囲の出典です。
- 個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(平成十三年法律第百十二号) 労働局長の助言・指導、あっせんと、それらを求めたことを理由とする不利益取扱いの禁止の出典です。
- 社会福祉法(昭和二十六年法律第四十五号) 運営適正化委員会(第83条・第85条)の出典です。
- 労働契約法(平成十九年法律第百二十八号) 安全配慮義務(第5条)の出典です。
- 指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準(平成十八年厚生労働省令第百七十一号) 苦情窓口(第39条)、虐待防止委員会・研修・担当者(第40条の2)の出典です。
- 介護給付費等に係る支給決定事務等について(事務処理要領・最終改正 令和8年7月・厚生労働省・PDF) 支給決定の性質、同じ種類のサービスで別の事業者と契約する手続、有効期間の上限3年の出典です。
- 雇用保険法(昭和四十九年法律第百十六号) 受給資格要件(被保険者期間・第13条)、適用除外(週20時間未満・第6条第1号)、就職困難者の所定給付日数(第22条第2項)、給付制限(第33条第1項)の出典です。
- 令和6年雇用保険制度改正(令和10年10月1日施行分)について(令和7年8月20日・厚生労働省 職業安定分科会雇用保険部会 第205回 資料1・PDF) 週10時間以上への適用拡大、施行日 2028(令和10)年10月1日の出典です。
- 特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要(ハローワークインターネットサービス) 嫌がらせによる離職は特定受給資格者の範囲の出典です。
本記事は2026年9月時点の制度と公表資料にもとづいています。使用者による障害者虐待の状況は厚生労働省が令和8年9月11日に公表した令和7年度集計、施設従事者等による虐待事例の対応状況は令和7年12月に公表された令和6年度調査結果、ジョブリウム掲載のA型事業所件数(4,501件)は2026年9月18日時点のデータにもとづいています。
