「配慮」と「特別扱い」の線が、どこにあるのか分からない。
休みの取り方を緩めたら、他の社員から不満が出ないか。逆に断ったら、差別だと言われないか。そして揉めたとき、説明を求められるのは人事の自分ではないか。前に一人採用して早く辞められていれば、現場の「またやるのか」という空気も一緒に背負うことになります。
採らないという選択肢はありません。人数は決まっています。それでも踏み切れないのは、採ったあとが読めないからです。
この不安には、答えが法律に書いてあります。どこまでやれば義務を果たしたことになるのか、どこからは断ってよいのか、揉めたときに誰が間に入るのか。そして、社員の相談を誰が受けるのか。4つとも、条文と指針に答えがあります。相談を受ける窓口は、外部に委託してよいと指針に明記されています。人事が一人で抱える前提の制度ではありません。
この記事では、その4つを条文と指針で確認します。読み終わると、採用の前に決めておくこと6項目と、それぞれを誰が決めるかが表になっています。
断ってよい基準は、条文に1行で書いてある
合理的配慮の義務には、ただし書きがあります。障害者雇用促進法 第36条の3です。
ただし、事業主に対して過重な負担を及ぼすこととなるときは、この限りでない。
過重な負担になるなら、断ってよい。これが条文に書かれた線です。ただし断り方には手順があり、そこを飛ばすと結局揉めます(後述)。
では「過重な負担」とは何か。厚生労働省の合理的配慮指針が、判断する要素を6つ挙げています。
| 要素 | 自社で考えること |
|---|---|
| 事業活動への影響の程度 | その人だけ繁忙期の残業を外したら、ラインは回るか。他の人で埋められるか |
| 実現困難度 | 作業台の高さを変えられるか。既存の休憩室を静かな場所として使えるか |
| 費用・負担の程度 | いくらかかるか。設備なら障害者作業施設設置等助成金、介助者の配置なら障害者介助等助成金。申請の期限は制度ごとに違い、審査にもおおむね2〜3か月かかる。配慮の中身が決まったら先に確認する |
| 企業の規模 | その費用と手間は、自社の規模に対して重すぎないか |
| 企業の財務状況 | いまの財務で負担できるか |
| 公的支援の有無 | 使える制度があるか。使える場合はそれを利用した後の負担で過重かどうかを判断する |
「何個当てはまれば過重」という線は法令にありません。総合的に勘案して個別に判断する、とされています。裏を返すと、この6つを書き出して判断した記録があれば、それがそのまま説明の材料になります。感覚で決めた、という状態を避けられます。
ただし、断って終わりにはできない
指針は、過重な負担にあたると判断した場合の手順も定めています。
- 実施できないことを本人に伝える。理由は、本人の求めに応じて説明する
- 障害者との話し合いのもと、その意向を十分に尊重したうえで、過重な負担にならない範囲で措置を講じる
「無理です」で打ち切るのではなく、できる範囲を一緒に探すところまでが1セットです。ここを飛ばすと、法的にも社内的にも揉めます。
揉めたときは、会社と本人だけで解決しなくてよい
ここがいちばん知られていない部分です。紛争になったときに間に入る仕組みが、法律に用意されています。

まず社内で話を聞く場を持つ。これが法律の建て付けです(第74条の4)。ただし、社内で試してからでないと労働局へ持ち込めない、という決まりではありません。社内では収まらないと判断した時点で、次の手続へ進めます。条文はこうです。苦情処理機関とは、会社の代表と労働者の代表で構成する、労働者の苦情を処理するための社内の場です(条文ではこの定義が括弧で入りますが、長いので外して引用します)。
事業主は、第三十五条及び第三十六条の三に定める事項に関し、障害者である労働者から苦情の申出を受けたときは、苦情処理機関に対し当該苦情の処理を委ねる等その自主的な解決を図るように努めなければならない。
語尾は「努めなければならない」です。専用の機関を新設していない会社でも、まず社内で話を聞く場を持つことが求められている、という意味です。
社内で収まらないときは、労働局が入る
都道府県労働局長による助言・指導・勧告(第74条の6)と、紛争調整委員会による調停(第74条の7)があります。条文が「双方又は一方から」と定めているので、会社側から求めることもできます。本人と直接やり取りして平行線になったとき、会社から労働局へ持ち込む手が残っている、ということです。調停のほうは、労働局長が解決のために必要と認めたときに開始されます。
そして重要なのが、第74条の6の第2項です。
事業主は、障害者である労働者が前項の援助を求めたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
申し出たことを理由に不利益な扱いをしてはいけない。この規定は調停を申請した場合にも準用されます(第74条の7第2項)。
調停は、紛争調整委員会の中に置かれる障害者雇用調停会議で行われます。調停案が出ても、受諾を義務づけられるわけではありません。
3つの制度で、対象になる場面が違います。
| 制度 | 根拠 | 募集・採用 | 採用後 |
|---|---|---|---|
| 苦情の自主的解決 | 第74条の4 | 対象外 | 対象 |
| 助言・指導・勧告 | 第74条の6 | 対象 | 対象 |
| 調停 | 第74条の7 | 対象外 | 対象 |
使い分けは、場面で見ると1行です。採用後に揉めたら3つとも使えます。採用前、つまり応募者との間で揉めたときに使えるのは、労働局の助言・指導・勧告です。
そもそも、揉めやすいのは配慮の中身ではない
指針が細かく定めているのは、どんな配慮をするかではありません。決め方と伝え方、そして相談体制です。実務の順に並べ直すと次の5つになります。
| 手順 | やること |
|---|---|
| 1. 確認 | 障害があると把握している社員については、採用後は事業主から、職場で支障となっている事情の有無を確認する。本人の申出を待つ形ではない(募集・採用時は本人からの申出が起点)。年1回の契約更新や健康診断に合わせて、定期的に確認する方法もある |
| 2. 話し合い | どんな措置が必要かを本人と話し合う |
| 3. 決定 | 本人の意向を十分に尊重して決める。過重な負担にならない範囲でできる措置が複数あるとき、話し合いのうえで会社がより提供しやすいものを選ぶことは差し支えないとされている。希望どおりにする義務ではない |
| 4. 説明 | 決めた内容を本人に伝える。過重な負担で断る場合は、実施できない旨を伝え、本人の求めに応じて理由を説明する。実施までに時間がかかる場合は、その旨を伝える |
| 5. 相談体制 | 相談窓口をあらかじめ定めて、社員に周知しておく |
この5つを踏んでいれば、結果が本人の希望どおりでなくても、手続きとしては筋が通ります。逆に、良かれと思って会社側だけで決めた配慮は、手順を飛ばしているぶん揉めやすくなります。
1回やっておけば効くこと
指針は、採用後の合理的配慮について、必要な注意を払っても、雇用している労働者が障害者だと知り得なかった場合には、義務違反を問われないとしています。その「必要な注意」について、厚生労働省のQ&A(1-5-2)はこう答えています。
全従業員への一斉メール送信、書類の配布、社内報等の画一的な手段により、合理的配慮の提供の申出を呼びかけている場合には、「必要な注意」を払っているものと考えられます。
一斉メールで呼びかけておく。これで「必要な注意」を払っていると考えられる、というのが厚生労働省の答えです。手間のわりに、抜けやすいところです。
文面に入れる要素は3つです。申し出の窓口はどこか。相談者のプライバシーを守る措置をとっていること。申し出たことや事実確認に協力したことで、不利益な扱いをしないこと。この3つは、いずれも指針が社員への周知を求めている項目です。
逆に、会社から踏み込みすぎる必要もありません。健康診断や面接指導で知った情報を合理的配慮に使うには、本人の同意が要ります。障害を受け入れていない人に、会社から配慮を迫る義務もありません。

5番目が、いちばん抜けやすい
相談窓口です。指針は、外部への委託も認められる方法として挙げています。
外部の機関に相談への対応を委託すること。
つまり、相談を受ける人を社内に置けない会社でも、義務は果たせます。人事が一人で全部を抱える必要はない、という設計です。
ただし、外に出せるのは「相談を受ける人」であって「決める責任」ではありません。人事の仕事で分けると、こうなります。
| いつ発生するか | やること |
|---|---|
| 一度決めれば済む(会社) | 窓口を定めて周知する。プライバシーを守る措置を定めて周知する。相談を理由に不利益な扱いをしないと定めて周知する |
| その都度(会社) | 支障となっている事情の有無を迅速に確認し、話し合い、決めて、説明する |
| その都度(外に出せる) | 日々の相談を受ける。相談内容に応じて適切に対応する |
人事の手が取られるのは下の2つです。そのうち、日々の相談は社外に置けます。ただし委託しても、その担当者が適切に対応できる状態を作ることは指針が会社に求めています。あわせて、会社へ上げる筋道も決めておく必要があります。
当社がやっているのは、その「対応する人」の部分です
ジョブリウムの社員サポートオフィスは、貴社が雇用した社員の相談先を、社外に置いておく仕組みです。福祉の専門職が入社後の相談に対応し、ワークスペースも使えます。上司には言いにくいことを、社外で先に話せる先がある状態を作ります。
在宅勤務の社員も対象です。ワークスペースの場所は、ご相談のうえ決めます。就業時間内に使うのか時間外か、月に何回使うのか、費用をどう見るのか。この3点はご相談のうえ決めます。費用は利用人数と使い方によって変わります。
ご利用は障害のある方に限りません。休職から戻ってきた社員、体調に不安のある社員。誰でも使える福利厚生として置いておくと、特定の人だけの制度になりません。
当社が求職者をご紹介することはありません。ご紹介するのは事業所です。業務の指示は、貴社から本人へ直接お出しいただきます(職業安定法44条)。
ここでいう事業所とは、就労継続支援A型事業所です。原則として雇用契約を結んで働く場所なので、通っている方には勤怠と業務の実績があります。
採用の前に、その事業所へ業務を委託して、成果物と進め方を先に確かめることもできます。この段階では雇用の義務は発生しません。委託で進め方が見えてから直接雇用に移る、という順番も取れます。雇用率に算定されるのは、雇用を開始した日からです。

いま決めておけることのリスト
採用の前に決めておけば、あとから個別に判断せずに済みます。
| 決めること | 選択肢の例 | 決める人(例) |
|---|---|---|
| 相談窓口をどこに置くか | 社内に担当を置く/外部に委託する。どちらでも社員への周知は要る | 役員会 |
| 通院のための休みの扱い | 無給の欠勤か、時間単位の有給か。月に何回までか | 人事課長 |
| 体調不良時の連絡先と手順 | 直属の上司か、人事か、相談窓口か。連絡の手段は何か | 人事課長 |
| 勤務時間を変える場合の条件 | 誰が申し出て、誰が決めるか。期間を区切るか、当面続けるか | 現場管理者と人事の合議 |
| 過重な負担の判断 | 6要素を誰が書き出すか。書いたものをどこに残すか | 人事課長 |
| 断る場合の説明 | 誰が伝えるか。別案を出す担当は誰か | 人事課長 |
この6つが決まっていれば、現場の担当者がその場で判断する場面を減らせます。揉めるきっかけになりやすいのは、決めていないことをその場で決めることです。
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まとめ
- 合理的配慮には「過重な負担なら断ってよい」というただし書きがある(採用後は第36条の3、募集・採用時は第36条の2)
- 過重な負担かどうかは、6つの要素で判断する。感覚で決めなくてよい
- 断る場合も、実施できない旨を伝え、できる範囲の別案を一緒に探すところまでが1セット
- 揉めたときは労働局の助言・指導・勧告と、紛争調整委員会の調停がある。会社側からも申し出られる
- 援助を求めたことを理由に不利益な扱いをしてはならない(第74条の6第2項)
- 揉めやすいのは配慮の中身ではなく、決め方と伝え方。手順は5つ
- 相談窓口は外部委託も認められる。日々の相談は外に出せるが、決めて説明する責任は会社に残る
ここまでは、どの会社にも当てはまる話です
条文と指針は全国共通なので、ここまでは調べれば分かります。分からないのは、自社の場合にどれが過重な負担にあたるかです。
同じ配慮でも、現場に余力がある会社と、そうでない会社では答えが変わります。6つの要素のうち「事業活動への影響」「実現困難度」「企業の規模」は、貴社の数字を入れないと判断できません。
相談窓口を外に置くかどうかも同じです。いま社内に誰を置けるかによって、外に出すべき範囲が変わります。
障害者雇用の進め方を、貴社の状況に合わせてご説明します

資料には、受け入れの流れ、社員サポートオフィスでできること、貴社の想定人数で計算した費用の試算を入れています。そのまま社内で回覧いただける形です。
「何から手を付ければいいか」というご相談も多くいただきます。決まっていない状態でご相談いただいて構いません。入力は1分ほどで、費用はかかりません。お電話番号のご入力は任意です。
参考
- 障害者の雇用の促進等に関する法律(e-Gov) 第34条・第35条・第36条の2〜4・第74条の4〜8です
- 合理的配慮指針(厚生労働省・PDF) 過重な負担の6要素、手順、相談体制の出典です
- 障害者雇用促進法に基づく障害者差別禁止・合理的配慮に関するQ&A(厚生労働省・PDF) 手続の起点・紛争解決の使い方の出典です
- 合理的配慮指針事例集(厚生労働省・PDF) 自社に当てはめるときの具体例です
本記事は2026年9月時点の法令と指針にもとづいて作成しています。個別の事案の判断は、事業所の所在地を管轄する都道府県労働局(職業安定部)にご確認ください。
